子ども、保護者、県民の立場から教育を考える
あいち県民教育研究所

 
提言・声明


あいち県民教育研究所 2019 年度総会記念講演 

 
 
虐待の連鎖を断ち切るためには
 
~「福祉」と「教育」の融合を目指して~
 
講師 冨田正美さん
(前愛知県教育委員会生涯学習課長)

 
○はじめに―阪神淡路大震災の経験
 
 私は“あいち民研”のことは、教育委員会にいたときからホームページなど見て知っていました。今年の年報を見ても何人かの知った方が執筆されています。そんな団体の集まる場でお話をさせていただくことになるとは思ってもいませんでした。私は今まで、「真面目にふざけながら」いろいろなことに取り組んできました。ひょんなことで公務員になりましたが、決められたことは人一倍やってきたつもりです。そして、教育を変えることで未来がかわると思い仕事に取り組んできました。神田さんが知事になったとき「愛知の教育を考える懇談会」というものを立ち上げ、そのときに企画振興部企画課に配属されましたが、それ以外はずっと教育委員会一本でやってきました。そして、仕事をしているとき、「なぜみんなは公務員になったのかな」と思って仕事をしていました。
 
 教育委員会の総務課で国際交流の仕事をしていたときに阪神淡路大震災が起きました。地震が起きるその前日にオーストラリアの人たちを京都に案内していました。そして、愛知に帰った翌日に地震が起きました。もし数日違っていたら自分たちも被災していたと思いました。そういったこともあって、この地震を他人事とは思えませんでした。それでホームセンターへ行き、被災者に役立つと思われるものをたくさん買い込み、バイクで被災地に向かいました。神戸に着いたらひどい状況でした。バイクで避難所に行き、支援物資を渡してきましたが、避難所で、避難所にも来られない人がいると聞き、そういった人の元にバイクで走りました。その時に被災者の方に足にすがって泣いて喜ばれましたが、私はそれまで、泣いて喜ばれたという経験はなかったです。体に電気が走りました。また翌週も行きました。自分の行動が役に立った、喜んでもらえたということを痛感し、こうした気持ちはお金に換算できるものではないこと、自分が生きている価値があるんだということを感じました。
 
 被災地の状況は、報道などで見るのとは全く違っていました。今まで県庁で仕事をしてきたわけですが、組織の仕事は身内の物差しで行われており、社会の当事者をよく見て仕事をする必要があると感じました。そして、「役に立ちたい」「喜んでもらいたい」ということが働きがいの原動力となりました。
 
○もう一枚の名刺
 
 そのときに名刺をもう一枚作ってみました。それまでは机上で資料を読み、先輩の話を聞いて仕事をしてきましたが、もっと現場に出向かなければならないと感じたからです。愛知ではちょうど大河内君の事件とか、いじめや不登校とかいろいろな事件が起きている時でした。そこで震災の時と同じようにいろんな現場に顔を出すことにしました。「不登校の親の会」とか、いろいろと出かけました。そのときに出すための名刺を作ったのです。「愛知県教育委員会 冨田正美」という名刺です。始めは、「なんで教育委員会のヤツが来るんだ」とか言われました。でもそう言ってくれることが当事者意識なんだなと思いました。それでもめげずに何回も通うと、「今までの役所の人と違うな」とか、後の懇親会に「よかったら参加しろよ」と言われたり、「実はこんなことが起こっているんだ」といったことを教えてもらって、それが仕事にも役に立って、役所の会議で報告したりしました。「身内の物差し」ではなく「社会の物差し」が必要だと痛感しました。
 
 役所は「前例踏襲、縦割り、横並び」ですが、それではなく「生活者起点、横のつながり、透明性」が大事だと感じ、自分はこういったスタンスで仕事をしていきたいと思いました。そこから気持ちが変わっていきました。何をやろうかと思ったときに、教育委員会の施策は、中ぐらいから、ちょっと上ぐらいの子どもを対象にした施策が多いんです。英語教育とか、グローバル教育とか。そこで仕事を終わってから困難を抱えている子どもの支援をしようと思いました。不登校の子ども、いじめられている子ども、障害を持った子ども、病気で療養している子ども、死にたい気持ちの子ども、LGBTの子ども、性的虐待を受けた子ども、ネグレクトの子ども、少年院から出てきた子どもなど。今から15年ほど前からこういった子どもの支援をずっと続けてきました。
 
 そうした中で、親から愛されない、虐待を受けている子どもが一番大変だと思いました。そこから虐待を防止しようという活動に入りました。それ以外の支援も続けているのですが一番力を入れているのが虐待防止活動です。その理由というのは、子どもは親を選んで生まれてくることはできないということです。子どもの権利条約では「全ての子どもは等しく生き生きと社会生活を送り、一人ひとりの個性と人格を認められ、教育を受け、豊かに生きる権利がある」と書かれています。でも実際はそうなっていないじゃないか、「全ての子どもを笑顔にしたい!」と思ったわけです。そのときに親から虐待を受けている子どもをなんとかしたいという所に落ち着くのです。
 
○オレンジリボン運動との出会い
 
 2004年に栃木県小山市で、幼い子ども2人が橋の上から落とされて亡くなる事件が起き、それを契機に翌年に「オレンジリボン運動」というのが起きました。でも、この運動が全然知られていないという現状を知りました。県の福祉担当職員でも知らない人がいました。ましてや教育委員会の職員は全然知りません。そこでオレンジリボンを知ってもらいたいと思い、オレンジ色のものを着用しました。そうすると「なんで」と聞かれるのです。そこで「オレンジリボン運動」を紹介することになります。役所に出勤するときもオレンジのコートを着ていきました。
 
 お祭りなどには、“オレンジレンジャー”という全身オレンジの衣装を着て登場したり、バイクが好きなので、オレンジ色のバイクに乗ったりして啓発活動をしています。バイクは社会悪という考えもあったりするのですが、これを逆に活動に使えないかと思いました。バイクを社会貢献に使って、バイク乗りっていいこともするんだ!ということに使えないかと思いました。そこで友達に声をかけてオレンジ色のバイクを集めて啓発活動をしました。でも、オレンジ色のバイクってそんなにないのです。さらにバイクに乗る人は自由にどこにでも行ってしまうので集めるのに苦労しました。そこで「ハーレーサンタCLUB NAGOYA」という団体を作りました。そして、クリスマスの時にたくさん集まってもらおうと考えました。
 
 これ以外にもいろいろと活動していますが、職場でも若い職員に仕事以外の名刺を作り地域で活動しようと呼びかけています。また、全国に「地域に飛び出す公務員ネットワーク」というのがありまして、そのメンバーは同じデザインの名刺を持つのですが、一言、自分の好きな言葉を加えることができます。私はそこに「最悪を想像して、最善を創造しよう」と書いています。その他にも名刺を7種類ほど持っていました。スライドでご覧いただいているのはゴミ拾いレンジャーという活動です。着ぐるみを着て名古屋駅での清掃活動をしていました。ゴミ拾いというつまらないこともこうしてやればたのしいし、目立ちます。引きこもりの子も着ぐるみを着れば顔を出さなくて済むので、「感心だね」とか「一緒に写真を撮ろうよ」とか言われ、ちょっとずつ自己肯定感が生まれます。実際、これを脱いで街に出られるようになった子もいます。この活動は、名古屋市の公民の副読本でも紹介されたそうです。
 
 東日本大震災が起きたときに、台湾から多額の義援金が送られましたが、政府は中国に気を遣ってきちんとしたお礼をしなかった。それじゃ、僕たちがお礼をしようとして始めたのが、台湾でのゴミ拾い活動です。台湾の領事館からは、台湾が汚いと思われるからそんなことは止めてくれとも言われましたが、趣旨を切々と伝えたところ分かりましたと言われました。そこで台湾の一番格調の高い公園で実施しました。200人ぐらいが仮装してゴミ拾いをしました。台湾のほとんど全紙が取材し、感謝状ももらいました。これは現在も続けています。毎年、3月に休暇をとって台湾に行っています。
 
○福島の子どもへの支援―「愛チカラ」
 
 このような活動だけではなく、次に「愛チカラ」という会も立ち上げました。愛知県からと、愛とチカラをかけました。県内の大学生を集め、被災地で何がしたいかと問いかけ、それをゼロから1にしようと活動を進めました。そこで見える被害だけではなく、見えない災害、つまり福島の子どもたちが表で自由に遊べない状況を見て、大学生たちは、夏と冬に子どもたちを愛知県に呼んでキャンプをしようということで、そのためのお金を集めたりしました。これは今も続いています。今は一般社団法人愛チカラという団体になって福島の子どもたちを支援しています。何年かに一度はお母さん方も呼んでいます。また霊長類ナンバーワンの吉田沙保里さんも子どもたちと遊んでくれました。最後には集合写真を撮ります。そのときの合い言葉は「We are family」です。
 
 こんな「課外活動」をしています。それは虐待をなくしたいというのがメインですが、それ以外にも困難を抱えた子どもを支援する活動をしています。
 
○虐待問題
 
 ここから虐待の話に入りますが、一般に虐待というと、身体的・肉体的虐待を主に考える人が多く、まだ理解が進んでいません。虐待というとすぐ体罰に結びつける議論がありますが、そうするとネグレクトなどは視野に入りません。虐待には
 
・「身体的虐待」
・「性的虐待」
・「心理的虐待」
・「養育の怠慢・放棄(ネグレクト)」
 
があります。どこまでが虐待かという問題もありますが、子どもが辛い思いをしていれば虐待だと思います。これから虐待は増えていくと思います。子どもの面前でのDVなどは実際増えています。ネグレクトも増えています。
 
 平成12年に「児童虐待の防止等に関する法律」が出来ました。出来たから虐待がなくなるのかというと、全国の児童相談所における虐待の相談件数は、平成11年度が11,631件、平成22年度は55,152件、平成29年度は13万件を超えています。愛知県の主な虐待者の比率は、実母が43.4%、実父が45.4%で両者を合わせると9割近くを占めています。子どもにとっていちばん身近な存在である保護者が虐待者になっています。虐待の多くは密室で行われており、これは社会全体で取り組まなければならないと思っています。
 
 そのためには早期発見と早期対応がとっても重要です。私は教育委員会にいましたが、教育委員会では家庭のことは分からない。子どもが宿題をやってこないが、どうしてかというと家に帰っても宿題をやる状況ではない家庭もあります。万引きして学校で指導されるのだけど、万引きしないと食べるものがない、生きていくために万引きするネグレクトの子どももいるのです。これは5時からの活動で知りました。これは普通に教育委員会の仕事をしている人には分からないだろうなと思います。やっと今になって、スクールソーシャルワーカーが学校に入ってきて、学校で生活の面に関与する人が出来、少しずつ分かってきました。それ以前はスクールカウンセラーだけでした。先生の中にも授業後も生徒の面倒を見るかたもお見えでしたが、一般的には知られていませんでした。
 
○「子どもを虐待から守るための5箇条」
 
 オレンジリボンの普及活動と並行して、「子どもを虐待から守るための5箇条」を保護者の方などに語ってきました。
 
 ・「おかしい」と感じたら迷わず連絡
 ・「しつけのつもり」は言い訳
 ・ひとりで抱え込まない
 ・親の立場より子どもの立場
 ・虐待はあなたの周りにも起こりうる
 
 「おかしい?」と思ったら、迷わず児童相談所(児童相談センター)、市区町村の家庭児童相談の窓口、福祉事務所へ連絡(通告)をしてください。いまは「189」に電話すると所在地の相談所につながります。虐待を受けたという通告を受けてから少なくとも48時間以内に面会やその他の手段により、当該の子どもを直接に目視することを基本としています。
 
 子どもは親を選んで生まれてこられないので、子どもの権利条約で書かれているようにすべての子どもが生き生きと生活し、人格も尊重されることが必要だと感じます。虐待だと思ったらいちはやく「189」に電話していただけたらなあと思います。今日はそれだけでも覚えていただけたらありがたいと思っています。
 
○ハーレーサンタCLUB NAGOYA
 
 今まで紹介してきたこと、ふざけてやっているようにみえることもありますが、なぜこんなことをやっているかというと、仕事の限界というか、行政の中では本当に話を聞いてほしい人に伝わらないとか、無関心の人に関心をもたせられないということがあります。いろいろな啓発活動をしても大体3年ぐらいで予算が付かなくなるので、行政の事業が終わった後にどう継続させるか、これは行政の永遠のテーマなのですが。この限界を破ろうとして作ったのが「ハーレーサンタCLUB NAGOYA」です。好きなバイクで社会貢献できればと考えました。愛知県の高校は「4ない運動」ですけど、実験的にクラブを立ち上げました。
 
 クリスマスの時に児童虐待をなくそうというプラカードを作り、サンタの格好でバイクに乗り、名古屋の栄の街中をパレードしました。当時はSNSのmixiで呼びかけたのですが、1年目は5~60台、2年目は100台から150台、3年目は200台を超えました。サンタの衣装は赤ですが、帽子だけはオレンジです。そうするとどうしてオレンジなのかという質問が出ます。そこでどうしてオレンジ色かという説明をします。この帽子も知的障害者の施設で作ってもらい、そこにお金が流れるようにしました。すべての人が幸せになれるように願って活動をしています。
 
 昨年はバイクの集合場所で、幼少期に虐待を受けた若くてきれいな女性に話をしてもらいました。そうするとバイクに乗っているおじさん、お兄さん方が、すごく真剣に聞いてくれます。そして、「こんなこといかん」「絶対に許せん」とか言いながら、涙を浮かべて聞いてくれます。そうしたあとで、このような思いをみんなに伝えるためにパレードをしますと伝えます。講演会などでは、「かわいそうだね」といった感想だけで終わってしまいますが、感じるとすぐに動く大人たちなので、知り合いのお店に虐待防止のカードを置いてもらおうとか、近所にある児童養護施設にプレゼントを贈ろうとか、いろいろな活動につながります。これは役所の啓発運動ではできないことです。パレードのあとにはHPに写真を掲載したり、お礼のメールを送ります。「冨田さん、年の終わりにいいことができました。来年も来ます」といった返事が来ます。また「パチンコでもうけた」といって3万円ほど寄付してくれる人もいました。この日のための募金として例年20万円ほど集まります。
 
 毎年、ブラッシュアップしようということで、去年はクラウドファンディングで50万円集め、かぶり物を作ったり、電飾がついたトラックで虐待防止のキャンペーンを行いました。河村市長にもかぶり物をかぶってもらいました。このような活動で、なかなか関心を持ってもらえない虐待防止に関心を持ってもらえたかなと思います。職場ではいろいろと言われました。高校の校長からは「愛知県は4ない運動なのに教育委員会の職員がそんなことしていいのか」とか言われました。批判する投書もありましたが、議員さんからは「すごいことやっているね、応援するよ」とか議会でも質問して応援してもらいました。
 
 まだ内緒ですが、8月19日は「バ・イ・ク」でバイクの日になります。愛知はバイクの事故が多いので、知事が、交通安全の取り組みをしている課室に「何か啓発をやれないか」ということで、「ハーレー・サンタがやっているようなことをやったらどうか」と言われまして、その課室の人が相談に来られました。うまくいくと、知事の日程が合う8月17日に県庁の広場にバイクが集まり啓発活動をする予定です。(実際に愛知県初の公式のバイクパレードができました。)
 
 また何か面白いことができないかと思い「秘忍者」という友人が作ったピンク色のキャラクターとコラボしました。望まない妊娠が虐待のいちばんの原因です。そこで「避妊」と「忍者」をかけてジミーハットリという名前のコンドームのキャラクターです。また広告のために、インドのタクシーを取り寄せ、宣伝に使っています。最近はオレンジ色の車を購入し、ナンバーを“189”にしています。
 
 三重県でも活動しています。知事から、三重県でも何かしてほしいということで、3年前から7月に行われる8時間耐久レースの前日、鈴鹿の街を800台のバイクがパレードするときにサンタの衣装を着て参加しています。
 
 このように虐待防止を知らなかった人に知ってもらう活動をしています。子どもの前で話すこともありますが、子どもにこんな大人がいるんだよ、ということを知ってもらうことも大切だと思っています。今、大人のいい話題はないのですが、こんな活動を続けていることを子どもに見せることもいいことではないかと思っています。また子どもにもいろんな体験をしてほしいと思っています。
 
○児童養護施設の子どもたち
 
 児童養護施設にいる子どもは虐待された子が多いのですが、彼ら彼女らは自己肯定感が低いのです。「自分なんか、大人なんか信じられない」と思っています。教育に携わっていて、自己肯定感を高めることが重要だと思っていました。そのためには、子どもの話を聞いてやること、そして無理矢理にでも何か見つけて褒めてあげることが大切だと思っています。「頑張っているね」の一言でもいいのです。
 
 子どものやっていることは「減点主義ではなく加点主義」で捉えることが大切です。はじめはゼロでスタートして、こんないいことしてくれた、といって加点していくのです。そんなことを通じて、子ども達は自分のことを「好き」だと思うことができ、自己肯定感も高まります。自分を好きで「認める」ことができたら人に優しくすることもできますし、他人を「認める」こともできます。
 
○母子生活支援施設
 
 この4月からは母子生活支援施設で働いています。いろんな家族を見ますけど、親の行動が子どもにすごく影響を与えているなと感じています。虐待をどう断ち切るかを常に考えながら仕事をしています。でもこれが簡単なことじゃないと施設で勤めてから感じています。やってもらってないことは人にできないとか、経験していないことはできないとか、あるべき家庭の姿とかがあるのですが、それを教えていいのかどうかとかあります。自分の育ってきたところが自分の家庭ですし、それが正解か失敗かは別として、そういうものだということでそれぞれ生きていくので、そこの部分をなんとかできないかなと思っています。
 
 施設のお母さん方にはお子さんのいいところを見つけようと話しています。短所を長所として捉えることです。
 
・ あきっぽい→切替が早い
・ プライド高い→自信がある
・ 集中力がない→フットワークが軽い
・ 気が短い→反応が早い
 
 このような話や、「三尺三寸箸」の話もします。これは天国も地獄も本当は同じところにあり、それぞれ手に1メートルの箸をくくりつけられている。食卓にはごちそうが並んでいるが、地獄の人は、自分の箸で料理を食べようとするので口に入らない、天国の人は、相手の人に食べさせる。そうすると皆、おいしい料理を食べられるという話です。つまり同じ環境であっても気持ちの持ちようで天国にも地獄にもなるんだよと話します。
 
Society 5.0のおかしさ
 
 今、世の中は少子化や高齢化で関係性がどんどんと希薄になっています。今、国はSociety 5.0ということを言っています。政府の広報ではこんな番組を流しています。
 
 「あなたのところにもこんな未来が」 LinkIcon (政府広報) 
 
 
 科学が進歩し、何でもAIなどがやってくれ便利になるという内容です。そんな内容の政府広報で「未来が楽しみでしょう」と言うのです。でもこんなことになったら虐待の連鎖なんか断ち切れないでしょう。引きこもりはもっと増えるでしょう。一体どうなるんだと思うんです。もっともっと家から出ない人が増えてしまうと思います。そうじゃなくていろいろな人と関わって、関わった人の中で誰かがその人と出会ったことで良かった経験となり、そのことがその人の人生に大きな影響を与えることになると思っています。
 
○斜めの関係を
 
 私は斜めの関係がとても大事だと思っています(友人、祖父母、親・教師、兄弟)。でも今は兄弟や祖父母となかなか一緒に住んでいない。子どもの数も少ないということで斜めの関係ができづらくなっています。そこに地域の方や先生が関わっていただけるといいと思っています。建物も斜めのはすかいがないと地震で倒れてしまいます。人間も縦と横だけでは倒れてしまいます。保護者、教職員、地域、企業の方、一丸となって子どもの発達に関わってもらうことが大事だと思っていますし、そういうことをいつもお願いしています。
 
 世界の人々、約70億ですが、それらの人々がみんな違うということを容認し、尊重することが大事です。今日は先生方の前ということで左右同じ靴を履いていますが、よく左右違う靴を履いています。それはなぜかというと、「誰が同じ形、同じ色の靴を履かないといけないと決めたの」ということから始めると、だれもそれに対して答えることができないのです。ダイヤモンドはダイヤモンドで磨かれるように、人は人の中で成長するのです。どういう人に出会えたかが、子どもたちの将来に大きく影響します。
 
 先日の千葉県野田市での虐待事件ですが、この事件も、「どんな親なんだ」とか「児童相談所は何やっていたのか」という話ばかりなんですが、そんなことよりも「自分だったらこのときどういうアクションをするのか」ということを考えることが重要だと思います。最近でもいろいろな事件が生じていますが、これらの事件を見ると「まるごと世帯支援」が必要だと感じます。子どもだけではなく子どもと親を支援する必要があると思います。子どもと親を母子分離して施設に入れるだけでは難しいと思います。
 
 今、勤めている母子生活支援施設はベンツが何台も駐まっているような高級住宅街の中にあります。同じ人間として生まれてどうしてこんな違いができるのかと思いながら通勤しています。施設には30世帯入れます。いろいろな背景を抱えた家庭があります。日々、勉強しています。ここで三尺三寸箸の話をしたりして、何かうまく変えられないかと思っています。先日もお食い初めの行事をしました。お母さんたちにこんなことをやるんだよと話しています。こんなことをやったという経験が大きいのだと思っています。プラスアルファの仕事になって職員は大変なのですが、こんなことをしています。明日はお宮参りに行く予定です。
 
○「福祉」と「教育」の融合を
 
 在職時から福祉と教育を融合しなければならないと思っていました。愛知県の子どもの貧困対策検討会議が発足したときにメンバーに入れてもらいました。退職まであとわずかでしたので、何かしたいと思い、県の教育の現状を見ると、不登校の中学生は全国ワースト3位、進学率はワースト2位、高校中退者はワースト7位、日本語教育が必要な外国人生徒は1位、こんな状況に対してほとんど何もされていない。生涯学習課は教育というものを考えた場合、いちばん大きい円になります。ある意味何でもやれるんです。そこで「若者の自立支援を目指す」ということで、高校で引きこもっていたり、中退したり、小中学校の時いじめなどで不登校だった子どものために「若者未来応援協議会」を立ち上げました。初年度は名古屋、豊田、豊橋に高卒資格が取れるようになることを目的とした無償で学習支援する施策を立ち上げました。これは副知事に入れ知恵をして決めてもらいました。議会でも議論してもらい、僕がいなくなっても継続できるようにしました。教育委員会にいても福祉とか労働部局と連携して作ってきました。今は愛知県図書館の部屋を借りて、夜間や休日にも実施しています。
 
 無償で学べて良かったとか、外国籍の人もここで学んで高校に進学できるようになったとか、最初はマスクとフードをかぶり人と話さなかった若者がここで学ぶことで、フードとマスクを外し、車の免許が取りたいといって免許を取って、今は働きたいと言うまでになりました。こんないい話をもらっています。今年は春日井と半田にも開設予定です。こんな貧困対策を平成34年まで書き込んであるのでうまくやってくれるといいなと思っています。
 
 これからは地域の人がいっぱい学校に関わって、先生に協力するだけではなく子どもを育んでいくことが求められます。「地域学校協働活動」は今も進めているのですが、愛知県の場合、なかなか広がりません。でも高齢者の方はいっぱいいるので、自分もまだ役割があるのだ、活躍できるのだということで活躍してもらおうと思っています。
 
 「オレンジバンド」というのがあります。これは研修を受けると認知症サポーターとしてバンドがもらえるものです。僕は、オレンジバンドと、オレンジリボンをコラボしたイベントを今年やりたいと思っています。オレンジフェスティバルといって今年の秋ぐらいに東海市の太田川でやりたいと思っています。高齢者のことも児童虐待のことも市の局でやっているのだけど、2つがオレンジでつながるんだという簡単なこともつながることができないんだと言うことを聞いて、役所の人間には困るなと思っています。先のビデオのSociety5.0のような社会になったら人が要らなくなります。そんな人は要らないです。知識は要らないです。知恵がほしいです。知恵がある人がほしいと思います。 
 
○高齢者に活躍の場を
 
 今、SDGsといって「持続可能な開発目標」ということがよく言われています。多くの企業などが掲げています。僕は企んでいることがありまして、高齢者を活用して、SDGsを「SD爺‘s」、スペシャルでダンディな爺さんたちという意味ですが、爺さんたちを活用して、SDGsの目標に対するアクションを行う集まりができないかなと思っています。目標はGNP(元気で、長生き、ポックリ)です。これに対してばあさんがいないのじゃないかという声があります。ばあさんは「You tu 婆ァ!!」ということをやろうと思っています。こんなふうに「真面目にふざける」というようにやっていきたいと思っています。
 
 今年の東京大学の入学式の祝辞で、上野千鶴子さんが「がんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったことを忘れないようにしてください」「恵まれた環境と恵まれた能力とを、めぐまれないひとびとを貶めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください」と述べています。その最後の部分がとても好きです。こういうことをみんなにやってほしいと思っています。
 
 児童養護施設の紹介をしようと思っていましたが、時間の都合で省略します。児童養護施設を出た後の施策があまりやられていません。それで小牧に自立援助ホームを立ち上げました。
 
○「ボクの算数」
 
 心臓が止まるのが「心肺停止」ですが、いろんな人が「心配停止」で自分のことだけしか考えていない。それが心配です。あと、ゼロと1の関係が大事だと思っています。できることを少しやるだけで、0と1では大きな違いがでます。できることを少しやるだけで大きな違いができるのです。
 
 オレンジリボンだけではなく様々なリボンがあります。イエローリボンは、障害者問題、グリーンリボンは臓器移植、ブルーリボンは拉致被害者救済、バイオレットとパープルのダブルリボンは、児童虐待と大人のDVなどです。1人が一つのリボンを支援しましょうという運動を起こしたいとも考えています。
 
 僕はアンパンマンが好きです。アンパンマンは敵を徹底的にやっつけません。作者はやなせたかしさんです。やなせさんは戦争の時に飢餓を体験し、それでこんな漫画を描いているそうです。先ほど紹介したようにお腹が減って万引きする子がいるんです。食べるということは大事なことで、週に1、2回、コンビニでパンを買ってホームレスの人のところにもっていきます。団体から支援を受けていない人で、一瞬でも食べることで幸せを感じてもらえればいいなと思っています。
 
 最後にいつもいっている「ボクの算数」です。
 
 〇あらゆることを1+1>2にしたい
 〇「+(たす)」助け合う
 〇「-(ひく)」引き受ける
 〇「×(かける)」声をかける
 〇「÷(わる)」いたわる
 
 これらはどんな高等数学より素晴らしい算数だと思っています。これをモットーにしています。子どもたちにはかっこいい大人の背中を見せることが必要だと思います。
 
 本稿は201969日に開催された第29回あいち県民教育研究所総会の記念講演をまとめたものです。あいち県民教育研究所は1991年に設立された会員制の教育研究所です。
 
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小中学校の部活動の見直しを求める提言

 
1.小学校の部活動の廃止
2.勤務時間外の教員による部活動指導の規制
3.専門家による部活動指導の原則の確立
4.教育行政の責任による指導者の配置の推進
 
LinkIcon(あいち民研 教育への権利部会 2015年5月31日)